『 こっちゃ こ!』

 

 

 

その夜も、あいかわらず厳しい冷え込みが 町を覆っておってね …

 

いつもどおり コタツにつかり、ビールを ちびちびやりながら、紫煙の行方を眺め 呆けていたら、

突然、寝付いたはずのおふくろが おもむろに起きてきて、そっと 茶の間の戸を開け、ワタシの方を覗く。

「なじょしたのや?(どうかしたの?」と尋ねると、

「… いま、『こっちゃ こ!(こっちに 来な!)』って 言わねがった? んだがら 来てみたんだけど」と おふくろ。

「おら、呼んでねぇでば(呼んでないよ)」と答え、

続けざまに

「… そいづぁ、お父さんが アッチ(あの世)がら、アンダのこと 呼ばってんでねのが?(あなたのことを 呼んでるんじゃないのかな?)」

と 話してやると、

気恥ずかしいような・訝しげなような ビミョーな顔をしながら、茶の間の戸を 静かに閉め、

そのままトイレにむかい、用を足して、再び 寝に就いた おふくろであった。

 

 

無意識下にある想いが、それらしき夢を見させたのか・幻聴を聞かせたのか、

はたまた マサカの、超自然現象が 起きたのか…

ま。ドッチにせよ、

凍てつく夜に、ホノボノと 温かくさせられた出来事でありました。

 

 

 

 

空っぽ

 

 

情愛のムダ

嫌悪のムダ

正しさのムダ

文字のムダ

言葉のムダ

時間のムダ

楽して生きるというムダ

楽して死ぬというムダ

業のムダ

悟りのムダ

未練というムダ

心を砕くというムダ

分かり合おうとするムダ

因果のムダ

悩むはムダ

想うはムダ

応報こそムダ

 

 

ムダ・無駄・むだ …

むた・空な・空しい …

 

 

 

 

日記

 

平成4年 5月16日 午前3時過ぎ。 ヒマシに 弱り変わり果ててく親父を、毎晩 随時 見張り続けているお袋が、寝室の2階で 起きていた私の名を 強く叫んだ。

お袋の声が響いた その時間に、私がグースカ『寝ていた』のではなく、シッカリ『起きていた』のは …

数週間前あたりから、『死』という『不安』に苛まれていたというか 『予感』が、私の頭に棲み憑いておってね … まともに寝れぬ夜が ずっと続いていたからだ。

 

急いで 親父の部屋に入ると、ベッドから 畳の上へと 転げ落ち、傍の 箪笥の横で 俯せたまま動かずにいる ジャージ姿の親父がいた …

5月とはいえ、登米の朝方は まだまだ寒い。

冷え切って 微動だにしない親父を抱え上げ、ベッドへと戻し 仰向けに寝かせ、慌てて 電気毛布と分厚い布団をかけてやると、「かはぁ…」と、吸ったのか 吐いたのか判らぬ息を ひとつした親父。

 

午前3時の前に、親父の確認をしたのが 午前0時くらいだったと言うお袋 …

チェックした その0時 直後に 転げてしまったのか、それとも 発見した3時 直前に 落ちてしまったのか … どちらかにもよるし どちらでもないかもしれんが、

一体全体 どれくらいのあいだ 親父は凍えてたままだったのか … 知る由もない。

 

お袋に「ずっと傍に居ながら、ずっと声をかけ続けてやってくれ」と頼んだあと、シャワーを浴び、身支度を始める … 乱れ打つ鼓動が 睡魔を たたき散らす。

台所で 湯を沸かしたりしてた 午前4時、親父の部屋から「誠。 … お父さん、息 しなくなった」と、お袋の 冷静 かつ 神妙な 声が。

 

消えたのか 残っているのか 判断がつかない、親父の 生気と意識 …

瘦せこけ、顔も体も すべて真っ白に映る そんな親父の、

骨だけみたいな腕から 脈を採ってみたり、

半開きの口や 鼻孔に 手をかざしてみたり、

瞼を開いて 瞳孔をうかがってみたり、

心臓のあたりに 耳をすましてみたり …

 

のち、

親父の部屋にて、

ケータイから 『119』 を 繋いだ。

 

、、、

 

私は かねてから 親父には、逝くのであれば 家で往生してもらいたいと 願っていた。

親父と 死にざまや死生観の話などは これっぽっちもした事はなかったが、自分勝手ながら、

最期が来るのならば、長年 暮らした 自分の家で 逝くのが、彼にとって 一番の幸せなのではなかろうか、と。

 

、、、

 

親父が逝ってから … どうにも やる気がせず ペンさえ握ってなかったのが、登米に還ってきてから 書き記し続けている 日記だ。

日記 とはいっても、その日の天気や 出荷内容や 体調や 出来事などを、簡単にメモしておく程度の ササイなものなのだがね … なんか とんと すっかり 書く気を失っておった。

 

、、、

 

毎日 自問自答し続けている。

はたして親父は ちゃんと満足したままに 最期を迎えられたのであろうか … はたして私は いくらかでも満足してもらえたままに 最期を看取ることができたのであろうか … とか、いろいろね。

その答えは、もちろん聞けず仕舞いだし、私が死んだ後も 永遠に 分からないままであろう。

 

、、、

 

そんなこんなしてるうちに

またもや『新年』が、勝手に『お迎え』に来てしまった。

… いい機会やもしれん。

 

日記という

止まった時間を 動かそう。

停めた文字を 刻みこもう。

親父が居た頃に 戻ろう。

たかが日記だが

前へと 行こう。

 

 

 

 

背負っても 気負わない

 

一日のうち、テレビは、ほとんど見ない。

そのかわり といってはナンだが、毎日 一本 何らかの映像作品を観る。

わが家にアマタある 映画やらナニヤラを、気分でチョイスしては 毎晩 観てる。

 

ゆうべは 昔のモノクロ洋画を鑑賞したのだが、観終えた直後のことだった …

タマサカ NHK-BSに合わせると、『テントを背負って 「賢治のイーハトーブを歩く」』という番組が ちょうど始まったところであってね。

 

出演者の仲川希良さん という方は その時が初見であったが、なにか すぐに 惹かれるものを感じた。

幼いころ 親御さんに読み聞かせてもらった 賢治の童話を朗読し、岩手の山を登り、テントを張り、火を焚き、餅入りの 芋ノコ汁をつくり、夜明け前に さらに脚を進め、浮かび上がってくる 美しい山の稜線に 笑みを浮かべておった。

見た目はキュートな希良さん、テントは背負っても、生き方は気負っていない、そんな凛々しい方なのかな と。

 

こういう人に めぐり逢いたい。 … いや、メッタにテレビを見ない私が、偶然 チャンネルを合わせ、画面越しではあるが、彼女に出会えたことだけでも、良かったではないか。

 

、、、

 

洋画、邦画、懐かしのテレビドラマや バラエティ番組、アニメに、自然や 動物や スポーツや 音楽の ドキュメンタリー & ヒストリー …

さて、今宵は ドレで  ゲンジツトウヒ  か。