『 こっちゃ こ!』

 

 

 

その夜も、あいかわらず厳しい冷え込みが 町を覆っておってね …

 

いつもどおり コタツにつかり、ビールを ちびちびやりながら、紫煙の行方を眺め 呆けていたら、

突然、寝付いたはずのおふくろが おもむろに起きてきて、そっと 茶の間の戸を開け、ワタシの方を覗く。

「なじょしたのや?(どうかしたのか?)」と尋ねると、

「… いま、『こっちゃ こ!(こっちに 来な!)』って 言わねがった? んだがら 来てみたんだけど」と おふくろ。

「おら、呼んでねぇでば(呼んでないよ)」と答え、

続けざまに

「… そいづぁ、お父さんが アッチ(あの世)がら、アンダのこと 呼ばってんでねのが?(あなたのことを 呼んでるんじゃないのかな?)」

と 話してやると、

気恥ずかしいような・訝しげなような ビミョーな顔をしながら、茶の間の戸を 静かに閉め、

そのままトイレにむかい、用を足して、再び 寝に就いた おふくろであった。

 

 

無意識下にある想いが、それらしき夢を見させたのか・幻聴を聞かせたのか、

はたまた マサカの、超常現象が 起きたのか…

ま。ドッチにせよ、

凍てつく夜に、ホノボノと 温かくさせられた出来事でありました。