電気毛布

 

 

 

夜中に目を覚ますと、台所の灯りが点いており、オフクロが 湯を沸かしていた。

きけば、電気毛布が壊れてしまい、仕方なく 湯たんぽを使うとのこと。

「んで、明日新しいの買ってくっからや、今晩だけ我慢してけろ」と言うと、

古びた湯たんぽに湯を注ぎながら 眼鏡を白く曇らせたオフクロは 小さく頷く。

 

で、昨日、量販店にて電気毛布を買い求め、家に帰ってきたその直後、小さな『揺れ』があった。

揺れるのは、珍しくも なんともないし、もはや 大きな揺れが来たとて、『なるようにしかならん』と思ってる。

 

3月のわが町は、まだまだ冷え込む。

ストーブ、こたつ、電気毛布 …『暖』が なければ、相当つらい。 一冬をしのぎ切れない。

 

あの日、あんな目に遭ったのに、その日は、空から 非情の雪が ちらついておったな。

夜になれば、とことん暗く、とにかく寒く、風呂に入れず、寝付けず。

あの日から 13年目を迎えようが、あの日以来、ふつうで あたりまえな 日常のありがたさを 忘れることはない。 体に刻まれ 頭に染みてるのだから。

 

午後2時46分、わが町に響くサイレンを合図に、海のある方角を向いて 手を合わせ、今年も 悼む。

 

新しい電気毛布で 凍え震えることなく、今晩も あったかくぬくぬくとしながら、オフクロが寝に就いてくれれば、それだけで嬉しい。

 

 

 

 

( 昨日 3月10日は、東京大空襲から79年目であり、わかっているだけでも 10万人以上の方々が亡くなっている。 … これは もちろん自然災害ではなく、いまもなお繰り返し続いている 『人工的大災害』のひとつ )